蛇の。
ザジ様が私に下さった二つ名。
系統・妖蛇を中心として組まれた私のデッキ。
それにちなんだそうだ。
デッキの見直しをするときは、いつも、その名を思い出す。
気が付くと、ザジ様を想っている・・・。
私はいつから、こんなにあの方を想っているのだろうか―――。
私があの方の部下になったきっかけは何だったか。
あの方が、私を欲しいと言ったからだ。
断ると、バトスピを申し込まれて・・・負けた。
私の低レベルな自尊心は無惨にも砕け散った。
それから、ずっとザジ様に従属している。
たくさんの勝負を経て、私は強くなった。
今だったら、ザジ様にも勝てるかもしれない。
けれど、あの方のことだから、きっと負ける直前に逃げるんだろう。
「負けなし」などと言われてはいるが、あれでは負けたも同然なのではないか?
そう思うこともあるが、あれは負けたのではないとも思う。
ザジ様は、本当の自分を他人に見せない人だからだ。
本当の実力を発揮して、本気で勝負したことなど、今までない・・・のだと思う。
私では、ザジ様のことを理解することなどできないけれど・・・。
「ちゃん」
特徴的で、楽しそうな声が聞こえた。
はっとして振り向くと、眼前にあるのは愛しき主の仮面。
視界がほとんど仮面で埋め尽くされる程度の距離。
「ザジ様・・・」
唇を動かすと、ザジ様のそれに触れてしまいそうだった。
大きく歪んだそれは、ぱっと離れて言葉を紡ぎ始める。
「こんな夜中に、デッキの見直し?真面目だねぇ」
「カードバトラーですから。・・・ザジ様が不真面目すぎるんですよ」
「ええ?俺はいつだって真面目だよ?」
「真面目に戦っていたら、逃げませんよ」
「逃げてなんかいないさ。本当に、いつもちょうどいいタイミングで会議とか呼び出しとかが・・・」
「はいはい、分かってますよ」
「・・・ま、いいけどね」
肩をすくめて言うと、私のカードをいじり始めた。
本当に、よく分からない人だ。
怒るのならちゃんと怒ってほしい。
感情を面に出さないというか、何事にも真剣でないというか。
とにかく、謎な人で、だからこそ気になる。
気にして、いつも見ている内に、愛していた。
そのことに気付いたのがいつだったかは思い出せないけれど、満月の晩だったような気はする。
そう、ちょうど今夜のような・・・。
「そういえば、何故私のところに来たのですか?」
「ん?」
カードをいじる手を止めて、考えているような表情。
ああ、特に用事があった訳ではないらしい。
「ほら、月が綺麗だからさ、君のことが気になったんだよ」
「・・・?何故、ですか?」
用事もないのに夜中に部屋を訪ねてきたのか。
そんなことも思ったが、ザジ様が気に掛けてくださるのは嬉しい。
だが、月と私がどう結びつくというのか。
月といえば、月光のバローネとかいう貴族だろう。
「決まってるだろ?君の目は、綺麗な金色をしてるからさ。月みたいに」
「は?」
そんなことは初めて言われた。
以前、蛇みたいな金色の目だと言われたことはあるけれども。
ああ、やはり理由などなかったのだな。
それならそうと、何となくだとか気まぐれだとか言えばいいだろう。
何故そんな意味のない嘘を吐くのか。
「嘘じゃないよ?」
「・・・は?え、いや、でも、そんなこと初めて聞きましたよ」
「言ってなかったからね」
ああ、もう、この方はいつもこうやって私をからかうんだ。
私はカードバトルは強いし、頭も切れる方だ。
だが、どうにもザジ様との言葉遊びは苦手だ。
気が付くといつもザジ様のペースになっている。
それでも苛々しないのは、私がこの方を愛しているからなのだろう。
「そういえば、さっき、何を考えてたのかな?」
「はい?さっき、というのはいつのことでしょうか?」
「デッキの見直しをしてたときだよ。まあ、そんなこと忘れて、物思いに耽っていたようだけどね」
「あ・・・」
見られていたのか。
何故話しかけてくださらなかったのだろう。
ああ、決まっているか、そんなこと。
私を眺めて、楽しんでいたのだろう。
何を考えているのか推測して・・・。
「ザジ様のことを考えていたんですよ」
「へぇ、それは嬉しいね」
おどけたような口調は、真剣さの欠片もない。
本当にそんなことを思っているのか、いないのか。
「私はザジ様を愛していますから、気が付くといつも、貴方様を想っているのです」
「知ってるよ。大切な部下の気持ちくらい、分かってるさ」
歪んだ唇から吐き出される言葉は、どこまでが本当なのか。
あるいは、全てが嘘なのか。
私には、この方のことは理解できない。
「俺も好きだよ?ちゃんのこと」
楽しそうに言い放たれたその言葉は、もう何度も聞いた。
「だから、これからもずっと、俺に尽くしてね」
そう言いながら笑みを深くして、暗闇に融けるように去っていく。
いつものパターンだ。
「言われなくてもそのつもりですよ」
好きだという言葉が、部下としてなのか女としてなのかは分からない。
そもそも、その言葉が本当だという確証もない。
あの方は、そういう人だから。
それでも、このままで構わない。
あの方はそういう人で、だからこそ私はあの方を愛しているんだ。
確証がないのならば、どうかそのままで
―――けれどいつかは、本当の貴方を見せてほしい。
そんなことを思っては、いけませんか?