季節は夏。
今日の私は午前中用事があって外に出かけていたのだが、
暑さに負け結局は大人しく事務所のソファの上にごろんと寝転ぶことになった。
今、この部屋にいるのは私と社長こと鼎さんだけ。後の皆は用事があって外出中だ。
「」
「ん?社長どうしました?」
「お前に触れて良いのは俺だけだ」
「え?」
(たぶん)事務仕事をやっていたはずの社長が唐突に真剣な眼差しを私に向け呟いた。
突然、彼は何を言っているのだろうか?
訳が分からなくて首を傾げるがやっぱり分からなくて、本人に聞いてみれば済む問題なのかもしれないけど、
なんと聞けばいいのか思いつかず、結局は口を噤んだ。(どうすればいいのだろう?)
もしかして悪戯?兄がいないから、替わりに私が的になっているとか。
きっと、そうだ!だってさっきまで誰が見ても不機嫌な顔をしていたというのに、
今はあんなにもニコニコと微笑みながら仕事をしているではないか。
1人頭を抱え思い悩んでいるとガチャっと玄関(?)が開き、学校から帰ってきたのだろう戌彦さんが入ってきた。
「あ!戌彦さん、お帰りなさい」
「ただいま」
戌彦さんはそっと私に微笑むと鞄をソファの上に置き、辺りを見渡した。
「社長と2人か?」
「はい。お兄ちゃんは司馬さんと寧さんと一緒に買い物に行っていますよ。何やら夜ご飯の買出しに行かれた様で」
「そうか」
ただそれだけ言うと戌彦さんは、私が座っていない反対側のソファに座った
(ため息をついてる。疲れているのかな?)
きっとまだ外は暑かったのだろう。夏はよく熱中症になりやすい。
水分補給!そう思った刹那、勢いよく立ち上がっていた。
「どうした?」
「あ、あの、麦茶しかないのですが、飲みますか?」
「ああ」
「社長はどうし「もらう」・・・分かりました」
なんであんなに勢いよく立ち上がったのだろうと内心疑問に思いつつも、
恥ずかしかった私はそそくさと台所へ引っ込んだ。
麦茶は朝ちゃんと冷蔵庫に冷やしていたから人数分のコップを出し淹れるだけの簡単な作業を数分終わらせ、
こぼさない様、慎重に歩きながら戻ってみると社長も指定のソファに座っていた。(あ!不機嫌な顔になってる)
少し席を外しただけなのにどうしたんだろう?と疑問に思いつつ、小さく「どうぞ」と呟きながらお茶を配る。
最後に自分の分を机の上に置き、おぼんを横に置いて私は元座っていた場所に座ろうと・・・したのだが、
座る直前に社長に呼び止められてしまった。
「」
「はい?」
「ここに座れ」
こことは何処だろうか?地べたではなくちゃんとソファに座る予定ですよ。
そう思ったのだが、社長が何処を指しているのか分からず首を傾げると、
「ここだ!」と大きな声をたてられ思いっきり腕を引っ張られ気付けば社長の膝の上に座っていた。
これには私もだけど戌彦さんもびっくりだ!
「あの・・・社長?」
「なんだ?」
「お、降ろしてもらえないでしょうか?」
恐る恐る言ってみると、一瞬目が合うがふいっと顔をそらされてしまった。お、降ろしてくれないということ?
(戌彦さん、助けてください!!)
これはもう戌彦さんに頼るしかない!そう思った私は必死に目で訴えてみたが、
彼は小さく「諦めろ」と呟くとお茶を飲みその場から去っていった。
「見捨てないで、戌彦さああああああん!!!」
手を差し出し大声で叫ぶがやっぱり戌彦さんには届かず、
居心地が悪くなった私は大人しく社長の上に座るしかなくて(逃げだす勇気がないです)
しかし、社長・・・お、重くないのかな?こんなぶくぶくのぽちゃぽちゃな私が乗ってたらすごく重いだろうし、
それに私が恥ずかしい!え?これって羞恥プレイ?(もしかして私、嫌われているとか!?)
もしそうだったらと思うと悲しくて苦しくて・・・耐え切れなかった私は気付けばぽろぽろと涙を流していた。
その姿に社長は一瞬、驚きの表情を浮かべるが軽く私の頭を叩きながらため息をつくと、
一度膝の上から持ち上げ今度は正面に向けられぎゅっと抱きしめられていた。
「ったく、お前はすぐ泣く。だから、目が離せねえんだよ」
一瞬、子ども扱いされているのかと思ったけど雰囲気的になんか違って、
言葉にどんな意味があるのか聞きたかったけど、
抱きしめたまま優しくあやしてくれる社長の温かさが心地よくて嬉しくて私は彼の服をぎゅっと握り締めた。
「ようやく捕まえられたんだ。誰が逃がすかよ。泣きたいとき、頼るのは俺だけにしろ」
「捕まえられた?」
「ああ、ずっと願ってたんだよ。お前が俺の手を必死に握ってくれたあの日からずっと守りたいってな」
「え?私、社長の手を必死に握ったことありました?」
その言葉に彼は一瞬ぴくりと体を動くが、誤魔化すように強く強く抱きしめた。
「いつか分かるさ」
10/09/26
(お題配布元→マイ×ドリさま/君と100題:「096 お前に触れて良いのは俺だけだ」)
企画サイト「マイ×ドリ」さまに提出。
マイナージャンルということで「#000000/獅堂鼎」を書かせていただきました。
参加できてとても楽しかったです。ありがとうございました!